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ドコモの参入でパニックに

ところが、○五年になると、状況が一変する。姑息な計算の上に成立した微妙なバランスが崩れそうになった。NTTドコモが突然、クレジット・電子マネー事業への参入を表明したからだ。○六年春にドコモはiDという決済ブランドをつくり、正式に電子マネー・クレジット事業への参入を発表した。その記者会見の場で、ドコモ側の代表として説明にあたったのが、iモードの生みの親であり、おサイフケータイの発案者、さらには、クレジット事業推進の実質的な責任者の、夏野剛マルチメディアサービス部長であった。スライドを使った手際よいプレゼンテーションの中で彼はドコモのクレジットカード戦略をとうとうと述べた。それはかなり刺激的なものだった。

「一般に電子マネーは少額市場を対象とするといわれているが、われわれはそれを気にしていない。クレジッ卜事業なのだから、今のクレジットカードがカバーしている中額・高額市場も積極的に取りにいきます」と高らかに宣言したからだ。当時のクレジットカード市場は、ショッピング取扱高が三十二兆円ほどであったが、そののび代は大きく、五年も経たずに個人消費支出に占めるカード決済の割合が米国並みに行くだろうとみられていた。ドコモはその成長市場のほんの一部をいただくだけと控えめに言った。しかし、これは明らかにクレジットカード業界への挑戦状であった。

携帯電話業界で第一位のドコモだったが、ナンバーポータビリティや少子化でケータイ市場が成熟化しつつあるため、新しい収益の柱を探していた。そこで着目したのが手っとり早く収益になる金融分野であり、なかでも電子マネーとクレジット市場であった。というのも、クレジット業界はショッピング取扱高が三十二兆円で、年率二桁の高い成長率を誇っている数少ない業界だったからだ。それでも日本ではクレジットカードが使われる頻度は欧米先進国に比べると低い。個人消費支出に占めるクレジット決済の割合は一二%ほどであった。これは二〇〇二年時点での米国の二四%、豪州三七%、英国二九%、お隣りの韓国の五八%に比べるとはるかにすくない。

しかし、他の先進各国が高い割合を示しているのだから、日本も近々急速に伸びるだろうことは容易に予測ができる。とくに○七年からは水道料金や一部地方税のカード払いが解禁になり、その追い風を受けて四~五年後には米国並みの二四%、七十二兆円規模(個人消費支出を三百兆円とみてその二四%が七十二兆円)にはいくだろうとみられている。そうなったときにドコモは新しく増えた四十兆円分のうち、加盟店手数料分として二%を収益として取ろうと目論んだ。「我々はクレジットカード会社がいまもっているところを取ろうとしているのではなく、パイを大きくしてその一部を取ろうとしている」(夏野氏)と記者会見では述べている。