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電子マネー規制法

電子マネーやポイントの普及が進んでいる。それと同時にそれぞれの事業者が破綻した際に補償がどうなるのかという問題も俄かにクローズアップされてきた。○七年に「円天」という電子マネーと称したものを売り、多額の資金を集め出資法違反で捜索を受けた会社があった。今後、電子マネー、ポイントが普及するようになった。また、消費者を直接対象とする企業の多くが様々な形のポイントサービスに関わるようになってきた。ポイントの発行総額は二〇〇五年度で四千五百億円に達すると野村総合研究所は推計しているが、実際は七千億円とも一兆円を超えるともいわれている。それに伴い、ポイント提供事業者が倒産した場合やポイント換算率を一方的に変更したときなどの補償をどうするかといった問題も注目をされている。

こうした電子マネーやポイントに関する法的整備が今後必要とされるだろうが、残念ながらまだ十分に行なわれているとはいえない。プリペイド型の電子マネー(ストアードバリュー型)に関しては、前払式証票規制法、いわゆるプリペイドカード法で、未使用残高の半分を供託金として積んでおくことを義務づけられている。エディの場合には、バリューイシュアーという事業者が、チャージされた金額の半額を供託して、もしもの時に備えている。スイカもナナコもチャージ額の半額を供託金として預けている。そのため、こちらは消費者保護の観点で守られているとはいえる。

しかし、オンラインゲームやネットショッピンクで利用されるウェブマネーやちょコムといったサーバー管理型電子マネーについては、法的規制がなく野放しの状態である。一方、ポイントについても、ほとんど法的な保証はなされていない。ポイントは企業の破綻に備えて、発行時に想定される使用額相当の引当金を企業側が積む習わしになっているが、これは会計監査の視点から求められるだけで、法的強制力があるわけではない。消費者を保護する全体的な法律が整備されてはいないのだ。そして、大企業については、ほとんど相当の引当金を積んでいるが、中小企業やネット関連事業者に関しては、引当金を積んでいない場合があり、倒産したり、破綻した場合には、ポイントの残金は補償されない。しかし、これからはポイントも電子マネーも交換で同じレベルで扱われることになってしまう(ポイント=電子マネー「通貨」)。

こうした事態は、これまで誰も予想しなかったわけで、法律的にも新しい状況が生まれているといってよい。いずれにしろ、今後は電子マネーやポイント、マイルに対応した全体をカバーする新しい法律が整備されることが必要になるだろう。こうした要請に応える形で○七年十二月に金融庁の「決済に関する研究会」が報告書をまとめた。内容は、業者の登録制の導入などを含む、電子マネーなどの新たな決済手段を利用する人々を保護するための法整備の必要性を訴えるものであった。これを受けた金融庁は、○八年五月に先にふれた公聴会を開催し、具体的施策の検討を始めた。そして、○九年の通常国会で資金移動サービス法(仮)の新法提出を目指そうとしている。この新法が成立すれば、業者の財務状況を当局が監視することで利用者の安全性を確保できるなど、電子マネーやポイントの健全な普及が加速されることになるだろう。

金融庁の公聴会

○八年五月に金融庁が入る霞が関の中央合同庁舎第七号館で、第二回「金融審議会 決済に関するワーキング・グループ」が開かれた。会場の特別会議室には金融庁の担当者のほかに学識経験者や消費者団体の代表者も参加、一般の傍聴者も入場を許可された。この種の会合には出席しないといわれる金融行政担当課長の姿もあり、当局の力の入れ具合が現れているようだった。この日は、ヤフーとNTTドコモのポイントサービスが議題となり、事業者が呼び出されて、サービスの内容について説明し、学識経験者や消費者団体からの質問を受けた。

とくに○七年十月からヤフーが始めたヤフーポイントの現金交換に関して質問が集中した。ヤフーは貯めたポイントを直接現金に交換するサービスを始めたばかりだった。その割合は100ポイント=八十五円。これを受けて、消費者団体からは、ポイントと疑似通貨の関係について質問がでた。「現金と交換するとなると通貨と同じ。ポイントにそこまでの価値をもたせて大丈夫なのか。

企業が破綻したときはどう手当てするのか」「ヤフーポイントで公金決済も可能ということだが、いずれはポイントが資金決済サービスに代わることを指向しているんじゃないか。その辺をどう整理しているのか」など、鋭い質問が集中した。そのため、業者側がたじたじとなる場面もあったが、消費者団体の人たちの質問や論議の展開には金融庁の意図がよく現れていた。同庁は、そもそも電子マネーの存在というものを疑問視しており、ポイントを含めた疑似通貨的なものを排除しようという意志があるようだった。

クレジットカード陣営の方向転換

交通系と買い物系の大攻勢の前に、クレジットカード陣営は、方向転換を迫られた。かざすだけで支払うことができる簡便さから、電子マネーは、少額決済市場で急速に勢力を伸ばしだした。そのうえ電子マネーは、利用件数がクレジットカードの比較にならないほど多いことが分かって、マーケティングツールとして活用しうることも判明した。それを知って、さらにクレジットカード陣営は焦りだしたのだ。うかうかしていると、エディ、スイカのライバルに決済の主役の座を奪われてしまうという危機感である。さらに、○六年十二月に成立した改正貸金業法によってこれまで収益の中心となってきたキャッシング、ローンの金利引下げが決まり、当てにできなくなってきた。

二九・二%だった上限金利が二〇%まで引下げられたのだから、約一〇%分の収益がふっとぶことになった。この際、クレジットカード陣営は、ローン以外にも何でもよいから収益源を確保する必要に迫られた。もはやiDを潰すなどといっている場合ではなくなった。いかに電子マネー陣営とうまく関係を作り、上手に取り込むか、それこそがクレジットカード陣営の生き残りの基本戦略となった。そのためには、まず、自社のクレジットカードから電子マネーにチャージできる権利を得る必要があった。また、一体型カードを積極的に提案し、電子マネーを搭載することに苦心し始めた。

カード会社だけでなく、メガバンクも、この分野に本格的に力を入れようと動きだした。いまやどのカード会社も電子マネーとの紐づけに必死である。つまり、クレジットカード陣営は、電子マネーの後ろに回ってキャッシュレス化を支援する立場にはっきり転換したといえる。電子マネーに対する消費者の絶大な支持をみる限り、電子マネーを取り込んで行かなければ、クレジットカードを使ってもらえない時代がやってきたのだ。そのため、ANA・Edyにも各社は積極的なサポートを行なうようになった。

ANA・Edyは、利用者にとってはお得を取る仕組みであったが、一方のカード会社にとっては、持ち出しばかり多い分の悪いサービスである。それでも、各社は、電子マネーの申し子といわれる陸マイラーたちの機嫌を取るためにも、そこにお金をつぎ込まねばならないと競ってサービスに参加した。それによって、マスコミや大衆の人気を引きっけることができると信じて疑わなかったからだ。電子マネーこそ主人で、クレジットカードは家来になるという状況が出現したのだ。しかし、これはますますクレジットカード陣営の欲求不満を募らせることになり、もちろんその財政も圧迫した。

電子マネー陣営の大攻勢

三井住友カードの苦悩を余所に、クレジットカード陣営は、クイックペイを使って、iDの勢いを削ごうとした。そして、○五年から○六年にかけて協議会は何度も決起集会を開き、クイックペイの立ち上げ・普及を話し合った。しかし、実際には現在に至るまで正面切っての対決には到っていない。現実には協議会メンバーの力を結集することはできなかったのだ。協議会に集まるカード会社にはそれぞれの事情があって統一的な行動をとるのは難しかった。たとえば、みずほフィナンシャルグループのクレディセゾンは、顧客の利便性を第一としており、顧客の求める電子マネーとはなるべく多く提携しようとしていた。

クイックペイにはもちろん対応するが、iDとも手を組むことを最初から明言しており、現在は、iDもメニューに加えている。三菱東京グループの傘下に入ったニコスは、もともとスマートプラスという独自規格を開発していたが、三菱がVlSAの盟主となったことから、クイックペイだけでなく、VISAの規格であるビザタッチの採用、推進にも力を入れている。また、ライフカードは三井住友グループとの関係が深いというので、○八年にはIDを採用するなど、それぞれが独自の動きをしている。そのために、クイックペイでの反撃という目論見は外れたかたちになっている。

一方、クレジットカード陣営がもたついている開に、○七年に入ると電子マネー陣営の大攻勢が始まった。大型電子マネーが相次いで登場したのだ。○七年三月には首都圏私鉄・バスの共通IC乗車券のパスモが発行になり、JR東日本のスイカとの相互乗り入れが可能となった。これにより、首都圏の電車・バスはスイカかパスモをもっていれば、自由に乗り降りできるようになり、しかも、駅構内の売店や街ナカのコンビニでの買い物も可能となった。乗り換えが楽になったし、買い物も手軽にできるようになった。また、ロコミでその便利さが広まったために、パスモヘの申し込みが殺到し、一時販売を中止せざるをえなくなった。

首都圏一帯がパスモの熱にうかされているようだった。それほど人気が高まったのだ。つづいて、四月にはセブン&アイーホールディングスから、買い物系電子マネーのナナコが発行になった。これはセブンイレブンでの買い物に利用できるようになった。さらに一週間たらずで、イオングループがフォンという電子マネーを発行して、対抗心をむき出しにするなど、大型電子マネーが全国を席巻する勢いになった。とくにセブンイレブンは東日本中心に多店舗展開しているし、イオン(ジャスコなど)は、全国津々浦々に店舗をもっているために、電子マネーの存在を日本全国に認知させるのには大いに役立った。

三井住友の決断

その経緯をドコモ幹部の話でまとめると、こういうことだった。○四~○五年にかけてドコモはアクワイアラーの候補として三井住友カードやJCBに打診を行った。その頃、三井住友フィナンシャルグループは、西川善文(現日本郵政社長)がまだ現役の頭取で、UFJグループを巡って、陣頭に立って三菱グループと最後の綱引きをやっているところであった。ただ、情勢は三井住友側に不利に傾いているようだった。UFJグループの心は、同じ関西の三井住友よりは、東京の三菱側に傾いており、次第に三井住友フィナンシャルグループ入りの気持ちがないことが感じられるようになった。

西川としても、「UFJを取り損なった時を考えて何らかの戦略を考えねばならない」と、焦りを感じていた。それにしても、三井住友にとっては、UFJを取り逃すことは大きな痛手であった。すでに述べたように、とくにクレジットカード分野では影響が大きかった。長い間VISAの盟主として君臨してきたのに、その座から滑り落ちることがはっきりし始めたからだ。というのも、VISAインターナショナルは、各国の最も会員数の多い銀行やカード会社をその国の盟主と決めて、戦略的な情報を最初に提供する決まりをもっている。

今までは三井住友カードはナンバーワンの会員数をもっていたから、その資格があったが、UFJが三菱グループに行ってしまうと、傘下のニコス、セントラルファイナンスなども三菱に加わってしまうため、三菱グループ内のカード会員数が日本最大になってしまうのだ。そうなると、自動的にVISAの盟主の座は三菱に移ってしまう。サンフランシスコに本部をおくVISAインターナショナルは世界の銀行、カード会社が少しずつ出資して作った団体だが、世界のクレジットカード取り引きの約六割を占めるガリバーである。

その影響力は圧倒的で、三井住友カードが、VISAの盟主の座を滑り落ちたら、インターナショナルから与えられてきた独占的な情報や便宜を得られなくなってしまう、それはすなわち、国内の他のカード会社との関係でも今までのような優位な立場に立つことは難しくなることを意味していた。これは、グループとしてみても、手痛い打撃になりそうだった。そこで西川は何とかこのマイナスをカバーする新しい展開を考えねばならなかった。その悩みを抱えているところに、ドコモがケータイを使ったクレジットという二十一世紀的なアイデアを持ち込んだのだった。しかも、ドコモは、ありあまる資金で出資までしてくれるという。ある意味、渡りに船であったのだ。

クレジット業界は、状況に合わせて姿を変えてきた。「ケータイを使ったクレジットという新しいコンセプトに乗って市場を押さえるのも悪くはない。当座の戦略としては十分に有効である」と、判断した西川はドコモの誘いに乗ることにしたのだった。三井住友グループとすれば、UFJグループは取り逃がしたし、このままいけば、会員数や取扱高といった数の争いで、負けがはっきりしている。同じ土俵で戦っては勝負にならない。それなら土俵を変えて戦えばどうだと考えた。そこでの戦いに引き込めば勝てるかもしれない。ギリギリの決断であった。しかし、これはクレジットカード陣営にすれば、裏切りにみえた。そのため、その後しばらくはギクシャクした関係が続いた。